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東京地方裁判所 平成2年(ワ)5396号 判決

主文

一  被告は原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一一月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  請求

被告は原告に対し、金一億七六七五万八九一五円及びこれに対する昭和六一年一一月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

本件は、原告が当座預金による銀行取引をしていた被告に対し、被告が銀行取引における受任者としての善良な管理者の注意義務に反し、過失により、原告に小切手の不渡事故を招来し、その結果、原告が経営していた店舗を失わせたことにより損害を被らせたとして、債務不履行による損害賠償を求めている事案である。

争点についての当事者の主張の要約は次のとおりである。

一  原告

被告の次のいずれかの責任原因(銀行の当座取引における受任者としての善良な管理者の注意義務違反)により原告は後記の損害を被つた。

(責任原因その一) 原告が別紙小切手目録記載の三通の小切手(以下、「本件小切手」という。)について、被告に対し、昭和六一年一一月二二日に、第三者供託による異議申立手続の依頼をし、被告がそれを承諾したのにかかわらず、被告は異議申立手続を履行しなかつた。

(責任原因その二) 仮に被告が第三者供託による異議申立手続を原告のために履行するについて条件を付していたとしても、被告は原告に対してその条件の内容についての説明を十分にしなかつた。

(責任原因その三) 被告は原告の小切手不渡事故について違法に第三者に対してその事実を漏洩した。

(損害)

原告は被告の責任ゆえに小切手の不渡事故を起こし、(責任原因その一又はその二)、あるいは不渡事故を第三者に漏洩され(責任原因その三)、その結果、原告がクラブを経営していた東京都新宿区歌舞伎町《番地略》所在の別紙物件目録記載の建物(乙山ビル)のうちの同目録記載の部分(以下、「本件店舗」という。)における営業の継続を不可能にさせ、原告に一五〇〇万円の慰謝料を含めて一億七六七五万八九一五円の損害を与えた。

二  被告

責任原因その一、二、三の各事実はいずれも否認する。

原告主張の損害については不知または争う。なお、仮に本件において被告に何らかの善良な管理者としての注意義務違反があつたとしても、そのことと原告が主張する本件店舗を失つたことによる損害との間には法的因果関係はない。

第三  本件において裁判所が認定する事実

一  (原告の営業、原告と被告との関係)

《証拠略》によると次の事実が認められる。

1  原告は昭和三〇年頃から飲食店関係の営業を始め、昭和四一年頃に本件店舗を開店し、昭和五〇年には、東京都公安委員会の風俗営業許可を取つて、本件店舗で「チェリクラブ、ミュージック」という名称でクラブを開いていた。この他にも喫茶店等の店を持つたこともあつた。原告は、昭和五七年から被告信用金庫に当座預金口座を持ち、手形、小切手の発行を受ける当座取引を行うようになつた(この点は当事者間で争いがない。)。

2  原告の資金繰りは昭和六〇年頃から悪化し、数千万円の借金をするようになり、昭和六一年ころは原告の名では通常の金融機関からは借金できないような状況になつた。従つて原告は、いわゆる町金融からの借金にも手を出すようになり、一方、被告との当座取引においても、手形、小切手の決済資金を当座預金に予め準備出来ず、手形、小切手が交換に呈示された当日あるいは翌日に初めて入金することにより不渡を免れるいわゆる入金待ちあるいは握りというルースな決済を度々(昭和六〇年九月から昭和六一年一一月までの間に八件に上る。)重ねるようになつた。被告に対しこれらの入金待ちあるいは握り等の措置を認めさせるについては、時には原告でなく、その債権者等が被告に圧力をかける等のこともあつた。《証拠判断略》

3  原告は昭和六一年九月から、町金融業者の丙川が営業している丁原センター(以下、「丁原」と略称する。)からの融資を受けるようになつた。丁原は債権回収に暴力団を使用するような業者であり、昭和六一年九月から一一月にかけて原告に二〇〇万円以上の金員を貸し渡したが、本件店舗の営業権を担保に取り、本件店舗の建物賃貸借契約書を原告から取り上げていた状況であつた。

二  (昭和六一年一一月二二日の出来事)

《証拠略》によると次の事実が認められる。

1  昭和六一年一一月二二日は土曜日であり、その日に交換呈示された小切手は、その日の午前一二時までに決済するかあるいは二号不渡届を出す場合は、その日に不渡届を出した上で翌翌営業日である一一月二六日(同月二三日が日曜兼祝日にあたるため二四日が振替休日となり二六日が翌翌営業日になる。)の午後三時までに支払銀行である被告が異議申立提供金を添えて手形交換所に異議申立手続をしない限り不渡になる。

2  原告は一一月中旬に別紙小切手目録の三枚の小切手(額面合計金一二〇万円。以下、「本件小切手」という。)を振り出したが、これらが同年一一月二二日に交換呈示になり(この点は争いがない。)、同日午前一一時頃原告と連絡が取れた被告新大久保支店(以下、「被告支店」という。)の南係長は原告に対し、当日の時点で原告の当座預金に本件小切手に見合う預金がなかつたため、至急入金するよう指示した。

3  原告は緊急の資金調達の要に迫られたため、一の3の融資を受けていた丁原から改めて一二〇万円を借り入れることとし、その旨を電話で丁原の丙川に申し込んだところ承諾を得たので丁原に赴いた。丁原では正式の借入れをする時間的余裕がなかつたが、丁原の丙川はその従業員である戊田春夫に一二〇万円を持たせた上で被告支店に赴く原告に同行させることにした。

4  一一月二二日の午前一二時過ぎ頃、原告と戊田は被告支店に赴いた(この点は当事者間に争いがない。)。原告は本件小切手三枚について契約不履行を理由として二号不渡届を出すことになり、3で用意した一二〇万円を異議申立預託金に使用して被告に異議申立手続を依頼することになつた。被告支店は、二号不渡届を作成し、本件小切手に不渡宣言を付した上で不渡届とともに手形交換所に送り、さらに原告に被告に対する異議申立依頼書を作成させた。被告支店は、別段預金元帳の異議申立預託金口に原告名義で一二〇万円を受け入れた旨の記載をした。

5  ところが、4の手続きをしている最中に「同和」を名乗る者から被告支店の下川路支店長に対して「一二〇万円は戊田の金であるので、戊田の名前で第三者供託をしろ。」という電話がかかつてきた。下川路支店長がこの電話の内容を原告及び戊田に告げたところ、戊田も一二〇万円が戊田の金であるので戊田名義で第三者供託をするように強く主張した。また、原告自身も、一二〇万円が原告が丁原から借入れを済ませた原告自身の金員であることを主張しなかつた。

6  被告支店は、このような経緯から一二〇万円を原告自身が提供した預託金として異議申立手続に使うことが出来なくなつた。一方、異議申立提供金のための預託金を手形・小切手義務者でない第三者から受けること(第三者供託)の可否については、被告支店の取扱の前例もなかつたため、当日、本店に指示を仰ぎ、また、文献を調査した結果、第三者供託を認める判例が一例見つかつたものの、結論が出ず、被告支店としては、一一月二五日に手形交換所に照会することにしてその扱いを留保することとした。

7  右のような経緯で戊田が出した形となつた一二〇万円については被告支店がいつたん預かることになり、被告名義の受取証(定期預金)の用紙を利用して、「受取証 別段預金……戊田春夫様……甲野花子当座預金預託金、小切手3枚……」と記載した受取証を戊田に発行した(7の事実については当事者間に争いがない。)。

8  右6及び7の処理をした趣旨についての被告支店としての原告に対する説明は、一二〇万円を一一月二六日までに原告自身の金員として改めて用意するか、被告が預かつた一二〇万円を正式に丁原あるいは戊田から借り入れてこない限り本件小切手が不渡になるという明確な内容のものではなく(証人下川路及び同南はこれに反する供述をするが採用できないことは後記第四で説明するとおりである。)、むしろ第三者供託による処理の可能性を考慮に入れたものであつた。原告としては、被告支店が一二〇万円をとにかく預かつたという事実に安心し、本件小切手の不渡を回避する手続を一応了したと誤解してその日の被告支店との交渉を終わつた。

9  被告支店は、一一月二二日、原告と戊田が被告支店から去つた後、別段預金元帳に記載した一二〇万円の預け人の欄について、原告名義を抹消し、「(戊田春夫)」と修正した。

三  (昭和六一年一一月二五日及び二六日の経緯)

《証拠略》によると次の事実が認められる。

1  被告支店は第三者供託の可否について、昭和六一年一一月二五日に東京手形交換所に照会したところ否定の回答を得た。被告支店の南係長は同日、原告に電話連絡を試みたが連絡が取れなかつた。一方、南係長は同日夜に戊田と連絡し、一二〇万円について原告が丁原あるいは戊田から正式に借入れができたかを尋ねたところ、戊田から、借入れはできていないこと、被告支店に預けた一二〇万円は自分の金であるので近々取りにいくという回答を得た(《証拠判断略》)。

2  一一月二六日になつて原告から被告支店に電話があつたため原告と連絡が取れた南係長は、原告に対し、同日の午後三時までに原告自身の金として一二〇万円を預託する手続きをしてほしい、それができないと本件小切手は不渡になつてしまうことを説明したところ、原告は本件店舗で開いていたクラブ「チェリー」の店長の甲田松夫を同行して、同日の午後に被告支店を訪れた(2の事実については当事者間に争いがない。)。

3  原告は南係長に対して、当日の午後三時までに一二〇万円を新たに調達することは出来ないこと、異議申立預託金として被告が預かつている一二〇万円を利用してほしいこと、原告が不渡事故を起こすと本件店舗に対する原告の債権者の実力行使も予想されること等を述べて強く懇願したが、被告支店は、従前の経緯から、預かつている一二〇万円を原告の金として処理することはできないとして、あくまで原告自身が一二〇万円を別に用意するようにという対応をした。原告はこの間、被告支店から丁原の丙川に電話してこのままでは本件小切手が不渡になつてしまうことを連絡した。

4  3のやりとりを続けている間に被告が手形交換所に異議申立提供金を提供して異議申立をすることができる最終期限である一一月二六日の午後三時を経過してしまい、結局、本件小切手は不渡となつた(本件小切手が不渡になつたことは当事者間に争いがない。)。被告支店は原告に対して本件小切手が不渡になつたことを告げた。

5  原告自身の資金繰りは昭和六一年一一月の当時、前記一の2で認定したとおり、相当苦しい状況であつた。しかし、原告の父親は弁護士であり、兄弟も建築設計事務所を主宰し、あるいは宅地建物取引業を営んでおり、一一月二二日の時点から準備できたと仮定すれば、一一月二六日までに一二〇万円を緊急に調達することは、これら親兄弟の存在をも考慮に入れるとき、原告として必ずしも不可能ではなかつたということができる。

6  本件小切手が不渡になつた当日である一一月二六日の夕方に、本件店舗は丁原の従業員あるいはその依頼した暴力団関係者と思われる者により占拠され、丁原の債権保全のために保管する旨の張り紙(甲七と同内容のもの)を張られ、翌二七日には、原告の東京都豊島区池袋の自宅(甲田松夫名義のマンションの一室)にも張り紙(甲七)が張られ、原告は自宅を出ることになつた。なお、一一月二七日に手形交換所が配付した不渡報告に原告の名が登載された。

四  その後の経緯

《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1  戊田は昭和六一年一二月三日に受取証を持参して被告支店から一二〇万円を引き出した。被告支店は別段預金元帳の処理について、一一月二八日付けで(戊田春夫)名義の異議申立預託金口から雑口に帳簿上移し換えていたが、一二月三日付けで戊田の右引出しの点を右元帳に記載した。

2  原告は三記載のとおり本件店舗を失うことになつたが、昭和六二年三月には新宿区歌舞伎町の別のビルでクラブ「チェリー」を再開した。しかし、結局、営業不振で同年一二月には閉店することになつた。原告の豊島区池袋の自宅マンションは、昭和六二年一月に抵当権者の株式会社第一勧銀ハウジング・センターの申立により差押えとなり、平成元年四月に競落された。

3  原告は本件小切手が不渡になつた以降も被告支店との間に当座取引を継続した(この点は当事者間に争いがない。)が、昭和六二年九月二五日に再び不渡を出し、さらに同年一〇月一九日交換の分につき不渡を出し、同月二二日に東京手形交換所から取引停止処分を受けた。

第四  第三の事実認定と異なる当事者の主張についての判断

一  昭和六一年一一月二二日の被告支店の対応、処理結果について

原告は、本件において被告が第三者供託の方法により異議申立のための預託金を預かり、原告のために異議申立手続を行うことを承諾したと主張する(責任原因その一)。しかし、前記第三で認定したとおり、一一月二二日において被告支店は異議申立預託金を第三者供託で受け入れる方法による異議申立手続を確定的に承諾したわけではないとみるのが相当である。このことは、被告支店が発行した預かり証が乙七、一一の二の形式のもの(預託金預かり証)ではなく、甲一、乙一の形式のもの(受取証 別段預金)であつたこと、甲三七の九から一三ページにかけての南の発言、甲三八の二〇から二一ページ及び四〇から四二ページにかけての下川路の発言からもうかがわれるところである。原告の主張に沿う原告本人及び証人戊田の供述は、被告支店がみずから積極的に第三者供託をするように働きかけたなど疑問の多い内容を含むものであり、採用することができない。なお、原告は、本件小切手のうちの額面五五万円の小切手の所持人である有限会社兼商の田中達二が被告支店に本件小切手の件で問い合わせた際に異議申立手続がされているという回答を得てそれを信じたこと、それについて後日、田中が被告支店に苦情を申し入れたことを原告主張を裏付ける間接事実として主張するが、仮に原告主張の間接事実が認められるとしても、本件における第三の事実認定を左右するものではない。

一方、被告は、一一月二二日に被告支店が一二〇万円を戊田から一応預かつたものの、被告支店が原告に対して、一一月二六日までに原告が一二〇万円を丁原あるいは戊田から正式に借りてくるかあるいは他の方法により右金員を調達しなければ本件小切手は不渡になると説明し、原告もその説明を了承したと主張するが、この主張も事実に反するものと考える。このことは、一一月二二日の経緯の中で被告支店が一二〇万円を預かつたことが被告主張の事実関係からすると不自然であることは否めないこと、甲一、乙一、乙八の記載の仕方(特に(戊田春夫)名義で一二〇万円を受け入れたのが雑口でなく、異議申立預託金口であつたこと)、甲三七の一〇から一三ページの南発言、甲三八の五から六ページ、二六から二七ページ、四一から四二ページの下川路発言からもいえるところであり、被告主張に沿う証人下川路及び同南の供述は採用できない。

以上のとおり、一一月二二日の被告支店の処理結果についての原告の主張及び被告の主張はいずれも採用できず、第三の二の6から8までの認定が相当であると判断する。

二  被告支店が原告の不渡の件を第三者に漏洩したとの原告の主張(責任原因その三)について

本件において原告の右主張を裏付けるに足りる証拠はない。むしろ、一一月二六日に被告支店において原告自身が電話で丁原の丙川に本件小切手の不渡の危険を伝えたことは第三の三の3で認定したとおりであり、丁原がそれまでの経緯及びこの情報に基づいて原告の不渡事故を予測して本件店舗等の占拠という実力行動に出たという推測も十分合理性を有するものである。なお、丁原は、原告から本件小切手の決済資金の融資依頼を受けたのを機に、本件店舗の営業権を原告から担保に入れさせていたことを利用してあえて原告を不渡事故に追い込んで本件店舗の獲得を図つたということも第三で認定したところによるとき考えられないことではないといえよう。

第五  第三の事実認定を前提とする本件についての判断

一  被告の責任について

第三及び第四で述べたところによるとき、原告主張の責任原因その一及びその三が失当であることは明らかである。そこで責任原因その二について判断する。

手形・小切手義務者と支払銀行とは委任関係にあるところ、支払銀行は、正当な事由がない限り、手形・小切手義務者の意に反して不渡事故が起こることのないようにすべき契約上の義務があり、銀行として通常要求される義務を怠つて不渡事故を招いた場合には、債務不履行の責を免れないというべきである。本件の場合、昭和六一年一一月二二日において、被告は第三の二の6及び7で認定したとおりの対応をし、原告に対し8で認定したとおり説明し、その結果原告に8記載の誤解を与えたものである。原告は手形・小切手の手続に必ずしも詳しくない者であることは《証拠略》により認められるから、原告が右の誤解をしたことは被告支店の説明不足に起因するといわざるをえない。従つて本件において、被告としては、右に述べた意味において、銀行として通常要求される義務を怠つた過失があるというべきであり、責任原因その二はこれを認めることができる。

二  原告の損害及び被告の過失との因果関係について

第三の三の5で認定した、一一月二二日の時点から準備すれば一一月二六日までに原告が一二〇万円を調達することは必ずしも不可能ではなかつたという事実を前提にすると、昭和六一年一一月二二日の交換日分の本件小切手が一一月二六日に不渡事故になつたことと右で認定した被告との過失の間には相当因果関係があるものということができる。

原告は、さらに進んで、本件店舗の喪失を被告の過失による原告の損害と主張するが、この主張は失当というべきである。勿論、本件小切手の不渡と原告が本件店舗を失つたこととの間に条件説的な因果関係(本件小切手の不渡事故がなければ本件事実関係のような推移のもとでの本件店舗の喪失はなかつたという限度での因果関係)が存在することは確かであり、原告の心情としてそのように考えていることは理解できるところではある。しかしながら、条件説的な因果関係とある結果がある行為によつて起因したものと法的に評価できるか否かの法的因果関係(相当因果関係)とは異なるものである。第三で認定したところによると、原告が本件店舗を失つたのは、第一には丁原の本件店舗に対する占拠等の違法な実力行使によるものであり、第二には原告自身がその種をまいた本件店舗の経営をめぐる当時の厳しい状況によるものであるというべきである。従つて、前記で認定した被告の過失と原告の本件店舗の喪失との間には相当因果関係はないものと評価せざるをえない。

そこで本件小切手が不渡事故となつたこと自体による原告の損害について判断する。一回目の不渡事故には取引停止処分の効果はない(現に昭和六一年一一月二六日以降も原告が被告と当座取引を継続したことは前記認定のとおりである。)が、不渡事故が期限の利益喪失の事由にされる場合がある等種々の社会的制裁を伴う危険をもたらすことは公知の事実であり、これと第三で認定した事実によるとき、本件において不渡事故によつて原告の信用が害されるおそれが生じたこと及び原告が精神的にも打撃を受けたことを認めることができる。約三〇年間にわたりほぼ独力で飲食店関係の経営にあたつてきた実績を考慮するとき、原告に対する慰謝料は、本件の一切の事情に照らし金二〇〇万円とすることが相当であると判断する。

第六  結論

以上によると原告の本訴請求は、被告に対して金二〇〇万円及びこれに対する被告の債務不履行の後である昭和六一年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度において理由がある。

(裁判官 菅原雄二)

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